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ケーキの歳時記

バックナンバー

1月 アップルパイの癒し
厳冬のニューイングランド

2月 チョコレートブラウニー
バレンタインデー

3月 メープルシロップ・チーズケーキ
マサチューセッツのメイプルシロップ工場

4月 ボストン・クリームパイ
ボストンとボストンバッグ

5月 巨大なデコレーションケーキ
卒業パーティーの花形

6月 ベークセール
労働と報酬そして遊び

7月 ストロベリー・ショートケーキ
独立記念日

8月 クランベリー・ブレッド
ファーマーズ・マーケット

9月 マフィン
大学生活の思い出

10月 パンプキンパイ
ハロウィーン

11月 インディアン・プディング
感謝祭

12月 フルーツケーキ
クリスマス

1月 アップルパイの癒し

ニューイングランドの1月は寒い。私のいたコネチカット州北東部では、年によって違うが、朝方の気温がマイナス10度から20度。昼間、0度になると暖かく感じる。こんな時期は、屋内の暖かみがほんとうにありがたい。

どこの家もセントラルヒーテイングは完璧で、一歩室内に入ると、花でも咲き出しそうな暖かさだ。家全体を24時間暖めていないと、水道管が凍結して破裂し、大損害になるのだ。

緯度が高いので、午後4時になると日が沈む。凍りついた車のドアを引き剥がすようにして開けて乗り込み、雪の吹き溜まりに注意して真っ暗な道を走り、家に帰り着くと、もう二度と外には出たくない。

こんな夜のお楽しみには、あつあつのアップルパイを焼く。道具と材料さえそろっていれば、難しくも面倒でもない。こういうアメリカのお菓子は、女だからといって労働を容赦されなかった開拓者の妻が、限られた時間と材料で作ってきたものだ。

りんごは、ざくざくと大きめに切る。精白糖ではなくてブラウンシュガーの方が断然いい。シナモンなどのスパイスは、日本の感覚よりたっぷり入れる。オーブンに放り込んでしまえば、あとはソファーに陣取ってくつろいでいればいい。

そうしているうちに、私の小さめのアパートは、りんごとスパイスの溶け合う甘い香りとオーブンの熱でほかほかになる。オーブンを開けると、黄金色に焼けたパイが、凍えて帰ってきた子を迎える母のような暖かさで微笑んでいる。

もうセーターも脱いでしまった私は、そこで冷凍庫からバニラアイスクリームを取り出し、大きめに切ったあつあつのパイにのせる。

冷たいのと熱いのが混ざり合い、りんごの酸味とブラウンシュガーのこくと強めのスパイスが、クリームの優しい味わいに溶けてゆく。ひとさじ口に運んでいつも思う。凍えて疲れて帰ってきた人が皆、このアップルパイの癒しにあずかれるようにと。

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