
8月のニューイングランドは、すでに初秋の趣がある。夏の最後の光の中で、野菜や果物が熟れだすこの頃になると、あちこちでファーマーズ・マーケットが開かれる。
私のいたコネチカット大学に近い教会の駐車場では、地元の農家が5、6軒、急作りの露店を組んで、自家製の作物を出していた。とうもろこしやトマト、桃などに混じってホームメイドのブレッド類も並べられている。
アメリカでブレッドと呼ばれるものは、日本でいうパンだけではない。四角いローフ型に入れられて焼かれたものは全部ブレッド。夏の果物クランベリーをたっぷり入れたブレッドなどは、よく買って食べたものだ。私たちにしてみれば、まったくケーキと呼びたいようなブレッドである。
クランベリーは、文字通りベリーの仲間。万年青(おもと)を一回り大きくしたような真紅のつややかな粒で、ニューイングランド北部が一大生産地。宝石のように美しいけれど、固くて酸っぱくて生では食べられない。だからケーキ、いや甘いブレッドに入れる。
卵、バター、砂糖、小麦粉をさっくり混ぜる。そこにルビーの輝きのクランベリー、それから、くるみも入れよう。まろやかになる。ローフ型に流し込んでオーブンへ。クランベリーが甘酸っぱく香りだしたら焼き上がりは近い。
夏の陽の下で熟れたクランベリーは、オーブンの熱でさらに熟す。焼き立てを切ると、生では歯が立たなかった実も、もうナイフに抵抗しない。それでも、さわやかな酸味の名残が、素朴に甘いブレッド地の味わいを引き締める。
ファーマーズ・マーケットも、あっという間の秋の訪れとともに店じまいだ。夏の名残にクランベリー・ブレッドをどうぞ。このブレッドには紅茶が合う。ハーブティーでもいい。濃い目に淹れて、ブレッドは厚めに切る。気がつけば、窓の外の木の葉の先が少し色づき始めている。
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