ケーキ歳時記
Cakediaries
ケーキ歳時記

11月
インディアン・プディング
感謝祭

   
ニューイングランドは、17世紀にイギリスの清教徒たちが初めて上陸した地。彼等は自由の大地を求めてはるばる海を越えて来たのだが、厳しく冷たい11月が来るたびに、彼らの入植当初の苦労がしのばれる。実際、最初の冬には清教徒たちの多くが寒さと飢えで死んでいったという。

その窮地を救ったのが、この地に長く生活していたアメリカインディアンだった。彼らは肌の色も違う新来者たちに、この極寒の地での生活の仕方や、食べられるものを教えたという。11月末の感謝祭は、これを記念するアメリカの一大休日である。200年余を経て、人々は今も当時の名残を食卓に並べる。

インディアンが清教徒たちに教えた食べ物の代表が、とうもろこしである。乾燥したものをはじけさせたポップコーンも、元来はインディアンのものだったそうだ。また、とうもろこしを挽いて粉にしたコーンミールも、いろいろな料理に使われている。

感謝祭で特によく食べられるデザートに、インディアン・プディングがある。プディングは、日本語でいうプリンだが、甘く味付けした卵と牛乳を主原料とし、それにさまざまな材料を加えたいろんな種類のものが作られている。

インディアン・プディングには当然コーンミールが入る。まず、鍋で牛乳と一緒に煮立てる。とうもろこし版 “そばがき” だと思っていい。そこに卵と糖蜜、砂糖とスパイス類を加える。オーブンに入れる前に牛乳をかけるのが伝統。オーブンから取り出したあつあつの上にバニラアイスクリームをのせても美味。その素朴な姿はケーキ屋さんのケースに並ぶ、果物やクリームでお化粧されたプリンとは似ても似つかない。

この素朴なインディアン・プディングには、信仰を杖として海を渡ってきた、質素で強い清教徒の女性の姿が重なりあう。その姿は、現在に生きるアメリカ女性の、強くすがすがしい美しさの中にも息づいている。