ケーキ歳時記
Cakediaries
ケーキ歳時記

2月
チョコレートブラウニー
バレンタインデー

   
ニューイングランドのような北方の地に暮らすと、バレンタインデーが2月なのがよくわかる。アメリカのバレンタインデーは一方通行(女性から男性へ)ではない。性別に関わらず、好きな人に何人でも好きなものをあげていい。

コネチカット大学にいたとき、2月14日にはいつもだれかが、学生控室の全員のメールボックスに小さなチョコレートを入れていた。日本語を教えた女の子から可愛いカードをもらったこともある。

毎日雪と氷に閉ざされて、日照時間はほんのわずか。人生ってつらいと感じる真冬のそのときに、身近な人々から好きだよといわれると、生きる力がわいてくる。厳寒期に心で温めあう日、それがバレンタインデーなのだ。

この日には、私はたいていチョコレートブラウニーを焼く。バターと砂糖を鍋で溶かして、上質のチョコレートと卵、粉、それからたくさんのくるみ。ゆるめの生地を型に流し込んでオーブンに入れればすぐできる。いたって簡単。

焼き上がりは、チョコレート味のケーキというより、ケーキ食感が残るチョコレートという感じ。外側はさくっと軽く、中はチョコレートの美徳のすべて。しっとりと豊かな味わいだ。

料理はおいしく作ろうとするとたくさんできてしまう。お菓子も然り。でも、それがお菓子がこの世にある理由。お茶のときや食事のあとに食べるもの、といった以上の役割がお菓子はある。温かい、いい香りの、優しい甘いものをまわりの人々と分かち合うこと。そこに会話が生まれ、人と人の絆が生まれる。

「お目当ての男性を射止める」という目的は、それはそれでぜひ成功を願う。でも、この春はまだ遠い冬の日に、ふだん好きだよなんて言えない人々(男性も女性も)を呼んで、手作りのチョコレートブラウニーでパーティーというのはどうだろう。何も言わなくてもお菓子と楽しい一時を分かち合うことで、皆に気持ちは伝わるはずだ。