ケーキ歳時記
Cakediaries
ケーキ歳時記

6月
ベークセール
労働と報酬そして遊び

   
やっと上着をぬいで外を歩ける季節になったある日、デイケア(保育園)の子供たちが保母さんに連れられてチラシを配って歩いているのに出会った。それは、保育園のベークセールの知らせだった。

ベークセールというのは、手作りでケーキやクッキーなどを焼いて売る催しで、学齢期の子供の場合など、そのお金で学級用に本を買ったりする。私自身も大学で、学部の資金作りのために参加したことがあるが、こんな小さいときから始めるとは驚きで、ある日、構内にある保育園を見学してみた。

5歳児のクラスで、子供たちが低いテーブルでこねているのは粘土ではない。クッキーの生地だ。子供たちは材料を計るところから始める。もちろん、先生が見ている。バターと、少し多めの砂糖を混ぜ、小麦粉を入れる。子供はこねるのが大好きだ。それも粘土ではない。泥でもない。こねた後、ちゃんと美味しく食べられるクッキーなのだ。

粉だらけになって頑張ってこねた後、生地をひとつかみ、えいっと取って、そのまま鉄板にのせる。アメリカの典型的なクッキーはバターと砂糖の割合が多く、生地はかなりゆるめだから、たいてい型抜きはしない(できない)。

オーブンに入れるのは先生がする。刃物も使わないし、オーブンは外から触っても熱くないように備え付けになっているから安全だ。子供たちは、後片付けもきちんとする。そして、クッキーの焼ける甘い匂いの中で、お絵かきしたり遊んだりする。焼きあがれば、もちろんいくつかはお腹に入り、あとはベークセールで売って、そのお金で皆の絵本やおもちゃが買えるのだ。

子供たちがここで学ぶのは、労働と報酬ということだけではない。自然の恵みである食物を自分たちの手で美味しいものにし、食べればそれは生きるエネルギーになる。およそ料理が喚起する平和なこの感じを、小さいころから身につける彼等は幸せだと思う。