ケーキ歳時記
Cakediaries
ケーキ歳時記

10月
パンプキンパイ
ハロウィーン

   
10月も末になると、北東部のニューイングランドには霜が降り、みぞれ混じりの冷たい雨がときには雪になったりする。その寒空の下、子供たちが思い思いの仮想をして家々をめぐり歩くハロウィーンがやってくる。

「トリック・オア・トリート」 何かくれなきゃいたずらするぞ、というあれだ。家々では袋菓子をたくさん用意して、小さな怪物たちの襲撃にそなえる。窓辺にはろうそく、戸口にはジャック・オ・ランタン。これは人の頭ほどあるオレンジ色のかぼちゃの中身をえぐり出し、鼻の形をナイフでくり抜いて、中にあかりをともすもの。ただし、この種のかぼちゃは食べられない。

食べられるのは、もっと地味で小ぶりなものだ。こちらは宿命のようにパンプキンパイになる。大人は大人で、子供時代の楽しみを忘れられず、夜中の仮装パーティーに浮かれるのだが、ホームパーティーであれば、大きい怪物のうちの誰かが必ず、いい匂いのを焼いて持ってくる。

パンプキンはかぼちゃと訳されるけど、日本のとはかなり味が違う。日本のは、カボチャ・パンプキンとして別に売られていて、普通に出回っているものはもっと水気が多く、粘り気が少ない。したがって味を足す必要がある。クリームと、こってりとこくのある糖蜜。砂糖は白ではなくブラウンシュガーを。スパイス類はシナモン、クローブ、そしてしょうが。これをパイ生地に流し込んで焼く。

そのまま食べてもいいけれど、子供に返っている大きな怪物たちは、台所から大好物だったホイップクリームを持ち出して来るであろう。アメリカには、整髪料のムースみたいに缶から吹き出てくる仕掛けのがあり、大人たちは日ごろのダイエットも忘れて、子供時代の夢そのままに、パイが隠れるほどクリームをシューっとやる。かくして賑やかな騒ぎのうちに秋は更けて行く。