エッセイ
ESSAY
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留学主婦のアメリカン・ケーキ

留学主婦のアメリカン・ケーキ

45歳でアメリカ留学した平野顕子のエッセイ集
(2000年創樹社・発売終了)を加筆・転載いたします。

お楽しみいただければ幸いです。

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ベースボールとアメリカンケーキ

   
日本ではいたるところで、今おいしいケーキを食べることができる。日本の消費者の舌はほんとうに肥えていると思う。私もいろいろなケーキを食べてきたが、それらヨーロッパ風のほんとうにおいしいケーキに比べれば、全体としてアメリカのケーキ(スーパーなどで売っているようなケーキではなく)は負けるだろう。

ところが、アメリカのケーキで、いくつかヨーロッパのケーキに勝ったものがある。それが、例えば、 『グレート・アメリカン・アップル・パイ』(これはヨーロッパにはないものだが)、
『ニューヨーク・チーズケーキ』と
『フルーツ・カブラー』だと思う。

それと、ヨーロッパのケーキとの違いは、アメリカのケーキには誰にでも作る楽しさがあるということだと思う。簡単に作れるということでもある。私はヨーロッパのケーキ作りも習ったが、これは材料も難しいし、そのプロセスは複雑だし、こと細かくしっかり学ばないとできない代物であり、なかなかもう一度自分で作ってみようという気にならない。それほど、芸術的だともいえる。

布地にたとえれば、ヨーロッパのケーキは絹で、絹はどこまでいっても美しいが、洗濯はできない。そこへいくとアメリカのケーキは木綿。じゃぶじゃぶと洗濯できるようなものだという感じがする。不況の時代でも家でできる。また、アメリカ人が好きなベースボールと同じ。

ベースボールは、「投げて」、「打って」、「走る」。ケーキ作りは、「粉を計って」、「かき混ぜて」、「ベークする」。野球に勝ち負けがつきもののように、ケーキ作りもときにはうまくいくし、時には失敗もする。そんな魅力があるものだと、習っていくうちに分かってきた。

ヨーロッパとくらべてどちらがいいか、優れているかということではない。それぞれの個性だと思う。ただ、強調したいのは、アメリカのスーパーやコンビニで売られているような、色鮮やかなネオンサインのようなケーキが、アメリカのケーキではないということである。

カラフルで丸ごと全部で3ドル50セントくらいで売っているもののほかに、ここで紹介しているような伝統的なおいしい家庭的なケーキがたくさんあるということだ。残念ながら、アメリカでも若いお母さんも作らなくなっているし、それはあまり日本では紹介されていない。だから、これからどんどんニューイングランドの文化とともに広まってほしいと願っている。