エッセイ
ESSAY
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留学主婦のアメリカン・ケーキ

留学主婦のアメリカン・ケーキ

45歳でアメリカ留学した平野顕子のエッセイ集
(2000年創樹社・発売終了)を加筆・転載いたします。

お楽しみいただければ幸いです。

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遅すぎることはない

   
アメリカの大学を卒業できたこと、そして、自分の将来の足がかりが見つかったということ。この二重の喜びを得ることができた大事な二年間余りだった。行くべくして、アメリカに行ってきた。今ではそう思っている。天が与えてくれたチャンスに乗ることができた自分は、とてもラッキーだったともいえる。

子どもたちに胸を張ることもできたし、何より自信がついた。でも、何よりここまでやってこれたのは、母と亡くなった父のおかげだと思う。アナ先生の家に下宿していた時、隣の家ですら200メートルも離れていて、周囲に何もなく、まさに闇のなかだった。もし、ここで倒れでもしたらどうしようかと思ったことがある。思わず手を合わせて天国にいる父に「無事に帰してね」と祈ったほどだった。

本当の孤独とは、こういうものかというのが、身にしみて分かった。それを思うと、自分を健康に生んでくれた両親に、心底感謝したい気持ちでいっぱいになる。精神と肉体の両方が健康でないと、アメリカ留学はできない。

4,5年前の自分と今の自分は、まったく違う。アメリカに行って一番感じたことは、私みたいな普通の中年のおばさんに対しても、アメリカ人は拍手で迎えてくれるということである。何かをするのに、“TOO LATE”(遅すぎる)ということは一つもないと。実際、目的がしっかりしていれば、受け入れ態勢はしっかりしているので、私くらいの年齢でも、もう一度勉強しなおす人はかなりアメリカに行っている。

かなり費用もかかったけれど、自分に投資したというか、自分の幸せを買ったと思っている。正直言って今お金はほとんど残っていない。でも、お金がなくても、今は目に見えない力が自分自身についている。お金は有限だが、私の手と頭が培ってきた力は無限である。

アメリカで勉強することはもうないかも知れない、でも、もし、またチャンスがあるとしたら、もう一度大学に入って、4ヶ月だけでもいい、まだやりきれなかった語学だけでも勉強したいなあと、今でも思っている。